フランス国際製本ビエンナーレの報告

第12回『フランス国際製本ビエンナーレ』の報告
12ème BIENNALE MONDIALE DE LA RELIURE D′ART
 
柴田有子
第12回『フランス国際製本ビエンナーレ』は、2013年9月25日(水)~29日(日)、パリ郊外のSt.-Rémy-lès-Chevreuseサン・レミ・レ・シュヴルーズで開催された。ここはパリから約1時間、B4線の終着駅である。
端正な街並みと教会、牧場、美しい池、古城等、サン・レミ・レ・シュヴルーズは絵画のような町である。二年に一度、この行き届いた自然に囲まれた会場で、『フランス国際製本ビエンナーレ』が開催されている。
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第12回のテーマは、”Ľ Aiguille Creus” une aventure ď Arseine Lupin-モーリス・ルブラン著の“針の岩”(日本語タイトルは「奇岩城」)。アルセーヌ・ルパンの冒険の第1作目である。
出展者は、先ず会場入り口で主催者の方々と挨拶を交わし、名札を受け取る。奥のホールが展示室である。展示スペースでは、中央に広く受賞者の作品が並べられていた。受賞内容に別れ、設置された台の上
に作品が展示されている。それらを囲み、二段の棚が円陣を組むように配置され、全ての出展作品が国別に収められている。
この展示方法は、表紙のみならず見返しも自在に眺められて良い。天、小口、花ぎれに至るまで、様々な角度から心ゆくまま眺められる。参加者同士互いの作品を囲み、自由に技法等について話し合えた。
第12回ビエンナーレは、アルセーヌ・ルパンの知名度の故か、作品・来場者数も多く、熱が感じられた展覧会であった。作品表現のバリエーションも多彩であり、見応えがあった。
 展示スペースは大きな円形を型取り、傍らで「綴じ付け製本」の作業工程を紹介する映像と、その質問に応じる担当者が佇み、一方ではワークショップが開かれていた。ワークショップ講師は、Mme LUNA TORRES (MEXIQUE)。主に子どもたちを対象とした製本講座だが、大人も参加出来る。子どもたちの立派な仕上がりに驚かされる。
 展示室を出ると、イラストレーター・作家のコーナー、製本関係のショップが並ぶ。革関係、羊皮紙、マーブル紙、活字、その他材料が揃う。珍しい物、入手しにくい物はここで購入出来る。(私も原本になる古書を入手。)
この度の参加国は26カ国で、
ドイツ(8)、アルゼンチン(1)、オーストラリア(1)、オーストリア(2)、ベルギー(12)、ブラジル(2)、カナダ(4)、韓国(8)、スペイン(29)、エストニア(16)、フランス(131)、DOM-TOMフランス海外県(3)、イギリス(1)、ギリシャ(1)、イタリア(7)、日本(26)、リトアニア(2)、メキシコ(1)、オランダ(7)、プエルトリコ(1)、ポルトガル(4)、ロシア(1)、スウェーデン(1)、スイス(4)、ウクライナ(1)、アメリカ(3) 以上、277名の参加。
参加した学校・工房 はオランダ、フランス、日本、スペイン、ベルギー、韓国、ドイツからの10校で、アトリエ・EIKOとStaas und Universitätsbibliothek Bremen (ドイツ)2校が受賞。 
 会期午前中は会場の近くにマルシェ(市場)が立ち、入場者は自然を満喫しながら食事を取り、ゆっくり展示を鑑賞出来た。
 今回の祝宴は27日(金)の夜、近郊のオーベルジュ“le Relair de la Benerie”に移動して行われた。ジャズ演奏のもてなし、第12回のテーマに沿ったメニューでの会食、穏やかな歓談の一時であった。参加者の多くは車で帰宅されたが、我々はここに宿泊して、翌日会場に戻った。
28日(土)の夕刻は、表彰式である。
受賞者は、展覧会場から、表彰式会場にバスで移動。
この町のパブリックスペースの大ホールで行われた。巨大なスクリーンに受賞作品が次々と投影され、主催者からの合評がなされた。各作品の前で受賞者が舞台に呼ばれ、賞品と共に、更なる批評と賛辞を受け、応答する。一通りの受賞が終わり、主催者と受賞者との記念撮影が行われた。式典後、しばし歓談の時が設けられた。
合評を聞き、その審査基準として、以下のことが挙げられる。
著作の主題と全体に及ぶ美学の一貫性、調和、理解の質、用いた素材の創意、独創性、技術的な出来映え、等々。これらの全ての点が加算されて受賞の結果に至ること。
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18の賞に31人の受賞者 があり、アトリエ・EIKOが“学校賞”1等を受賞。
PRIX “INTER ECOLE” 1er PRIX JAPON ATERIER EIKO
中尾エイコ氏・中尾よしもり氏・中尾あむ氏・松前隆志氏・柴田有子、5名の優秀賞受賞者が出たことでアトリエ・EIKOが学校賞1位を頂きました。
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展覧会場を取り囲む豊かな自然は、さながらバルビゾン派の風景画である。一方で朝、昼、晩と美しく変化する光が景色に織り込まれる様は、印象派の誕生を思い浮かばせる。タペストリーのような重厚さである。
このビエンナーレの会長であるMme Anne Périssaguet を始め、審査員の多くは親しみやすい方々であったが、造詣に対する深い理解と自由な視点、本に対する愛情には多くを示されたように思う。選ばれた作品には、技術の高さと共に、Tableauを基本としている豊かな表現、深みを覚えた。
 今回のビエンナーレでは、一つとして被ることのない作品の数々に感銘を受けている。様々な国の多種多様な技法・表現を目の当たりにして、技術の高みを目指す事もさることながら、本の世界が持つ「深み」を辿る―そこに喜びを見いだした旅であった。
(しばたありこ)
受賞者の作品、詳細は主催者の以下のサイトでご覧いただけます。
http://www.biennales-reliure.org/

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