『皮革用語辞典』が発行されました。
先日開催された第96回東京レザーフェアー(2017年5/25、5/26日)で、たまたま「日本皮革研究所(JILR)のブースに立ち寄ったところ、日本皮革技術協会編『皮革用語辞典』(以後『辞典』と表記)のチラシを配られた。皮革の研究者・専門家の執筆による最新の「用語辞典」である。私はいままで日本皮革技術協会編『革および革製品用語辞典』(1987年、光生館)を愛用してきたが、長いこと絶版になっていた。チラシによれば1987年の辞典を基にウエブ版『皮革用語辞典』http://dictionary.jlia.or.jp/index.php を公開し、それらの用語の見直しと修正を行ったのが今回の『辞典』のようである。
私がうかつだったと思うのは『辞典』の発行が2016年6月30日だったことで、昨年の出版物ではありませんか。発行後の1年間、知ることも教えられることも無かったのはとても残念なことと思う。
『皮革用語辞典』
特定非営利法人 日本皮革技術協会編
A5版・本文340ページ(横組み)、欧文索引付き・函入り
収録/用語2000、写真・イラスト・図表300点
本体価格(税別)/普及版【ビニール表紙】1万円
特装版【革表紙】1万3000円
申し込み先:樹芸書房
〒186-0015 東京都国立市矢川3-3-12
Tel/Fax042-577-2738
E-mail:jugei@dream.ocn.ne.jp
辞典の特装版(革装)というとあまり良い思い出がなく、むしろ普及版よりも早く劣化するような印象を持っている。革をきわめて薄く漉いたものを使っているために劣化が始まるとすぐに物理的力が無くなって傷むのが速いのである。ところが『辞典』特装版は少し違っていて、銀付きの一枚革が使われている。厚さを測ると1.5ミリくらいある。革の端を薄くして折り返すのではなく断ち切りにしてある。
チラシによれば使われている革は「日本エコレザー」である。『辞典』によれば、天然皮革であること、環境基準に適合した工場で製造され、有害な化学物質を使っていない、などの条件をクリアした革である。『辞典』特装版を手に持つと手触りが良くてとても気持ちがいい。これなら保存性にも期待が持てそうである。
1987年の辞典と比較すると、文字が大きくなって読みやすい。イラストも見やすくなり、写真がカラー化されたのがとても良い。英文索引が別冊になって利用しやすくなったが、日本語索引が割愛されてしまったのが残念である。また国内・海外における「皮革関連機関一覧表」も割愛されてしまった。関心のある方々は、日本皮革技術協会のサイトを利用してアクセスする必要がある。
製本家にとっては使用する革の性質をきちんと把握することはとても大切なことである。経験的に覚えたことに専門的な知見の裏付けが加われば自信を持てるし、他人に説明しやすくもなる。誤解を避けるためには、きちんとした用語でコミュニケーションすることが大切である。『皮革用語辞典』はとても有効な道具になるであろう。ちなみに送料は無料とのことである。発行部数は1,000部と聞いた。
製本家にとって革の劣化にどう対処すればよいのかも悩みの種であるが、日本の専門家・研究者は製本に使われた革の劣化そのものを知らない人が多い。そのことを話して問題の深刻さに耳を傾けてくれる人がいても、研究課題とするには困難なことが多いようである。製本家は皮革の研究者・専門家と今後も継続的にコンタクトをとりながら、問題の深刻さと重要性を訴えていく必要を感じる。
(岡本幸治)
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