貴田 庄『西洋の書物工房』
朝日新聞出版、2014年2月、四六判ソフトカバー、243頁+15頁、1400円+税
2000年に芳賀書店から出版されたが、「あとがき」によれば初版800部、増刷350部が刊行されたのみで絶版となった。最近では古書価が出版時の定価の3倍ほどになっていたと聞く。入手しにくかった本が朝日選書の一冊として装い新たに出版された。西洋の製本について歴史的、理論的にきちんと解説した日本で最初の本である。著者は映画関係の著述で知られているが、1970年代末にパリとブリュッセルで本格的にルリユールを学んで帰国した。マーブル紙作家としても知られている。実際に手を動かして制作する作家らしく製本をモノとしてとらえる視点は現在でもとても参考になる。本を構成している紙や革、金箔、などの材料の歴史や特性を詳しく解説し、小口装飾やはなぎれ、見返しなどについての論考は読んでいて実に楽しい。豊富な写真と図版が読む人を飽きさせない。旧版はB5の大きな本でゆったりとした組版で読みやすかったが持ち運びには不便だった。今回は四六判と小さくなったがあまり窮屈さを感じない。むしろ、どこにでも持ち運びしやすく、片手でページを繰る事が出来て、気軽に読めるのは大歓迎である。製本についてもっと深く知ることの出来る一冊である。電子版もある。
ランバロス・ジャー 市川恵里 訳『水の生きもの』
河出書房新社、2013年10月、B4変形(235×370ミリ)
ハードカバー、化粧函入り、28ページ、シリアル・ナンバー入り、3990円+税
とてもうつくしい本である。インド東部ビハール州に伝わるという民族絵画の一種ミティーラ画の絵本。まず大きさにびっくりする。函から出すと横長の本だが表紙とページを上方向にめくる。表紙見返しの色と線の鮮やかさが普通じゃない。そっと触るとインクの凹凸を指の下に感じる。そして絵本のページはインドの手漉き紙にインドのシルクスクリーン工房で作られたオリジナル版画である。手漉き紙と印刷インクの匂いが鼻を刺激する。しかし絵を構成する線の鮮やかさは、オフセット印刷では出すことのできないオリジナル版画ならではのものである。そして製本が手製本なのである。よく見返しのノドのあたりをみつめると、2か所で3つ目綴じしてあるのが分かる。3000部刊行のシリアルナンバー入り。同じシリーズの『夜の木』(タムラ堂刊)の制作工程を捉えた動画がある。http://www.youtube.com/watch?v=om6i3enGZ8c
(以上2点、岡本)
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